あれほど懸念されていたイングランドのフーリガンは現れずじまいに終わりそうである。いたって紳士的なサポーターばかりである。さるイングランドのサポーターの言葉を借りるとすれば、「フーリガンの連中は飛行機のチケットが買えないから、来るわけはないよ」
むしろ、現在問題なのは、祝勝ムードにかこつけて暴れる日本人の若い連中のばか騒ぎぶりである。
そして、それを煽っているのは、明らかにテレビのニュースやワイドショーではないだろうか。
ベルギー戦での勝ち点1獲得を喜ぶ狂躁ぶりを、テレビはこれでもかこれでもかとばかり何度となく繰り返して放映した。
戎橋から道頓堀に飛び込む若者。
渋谷、新宿、六本木などの盛り場で集まっては気勢を挙げて騒ぐ日本代表のユニフォーム姿の若い連中たちがいったい何度、映し出されたことだろうか。
そして、それを見た、騒ぎに参加していなかった若い連中はいわば「アナウンス効果」によって、次のロシア戦では能動的に騒ぎに参加したのだと思う。
ロシア戦勝利後は日曜の夜ということもあって、ばか騒ぎは、ベルギー戦後の騒ぎをさらに上回った。
渋谷や新宿では車の上に乗って騒いだり、電話ボックスを壊したりといった器物破損や警官になぐりかかる公務執行妨害まで起こっている。パブリック・ビューの広島会場では怪我を負った男が出たり、福岡ではガラスを割る者まで出た。
ロシア戦後の狂躁ぶりも、テレビでベルギー戦後の数倍も時間を割いてオンエアした。そして、道頓堀に飛び込む様子も、六本木の路上で交通妨害する一団の様子も、驚いたことに「列島熱狂!」などと無責任なことを言ったりしていた。「日本の若者も元気が出てきて、将来は明るいじゃないですか」などという発言をするコメント屋までいて、それを聞いて、おれはぶっ飛んだ。
で、チュニジア戦勝利後、ばか騒ぎぶりはさらにひどくなったのは言うまでもない。
騒ぐ連中は、テレビを見て学習して騒ぎぶりを模倣し、さらにエスカレートさせて行っている。
道頓堀に飛び込む人間の数だけみても、640名を数えたというのだ。ロシア戦後の狂乱はさらにフレームアップしたのである。
生中継で、カメラが切り替わると、まるでキューでも振られたように騒ぎはじめる若い連中を見ていると、テレビ屋は「日本代表の決勝トーナメント進出に狂喜する日本人」という絵柄が、どうしてもほしいのであろうと思った。テレビに映る素人も、心得ていて、どう演技すべきかを知っているので、熱狂を演じてみせる。
あの狂躁はテレビによって作られ、拡大して行ったと言えないか。
もしそうだとしたら、トーナメント戦後はもっとエスカレートするだろう。
ひとつ怖れていることがある。
日本が敗北したあと、テレビで見たモスクワの暴動を模倣する不心得者が出はしないだろうかと、ちょっと不安を覚えるのである。 |
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