怪談本の粗製濫造を叱る
 以前から繰り返して書いているけれど、私は「怪談」や「科学では解説できない不思議なお話」の類いが大好きである。私はつのだじろうの漫画や中岡俊哉先生の怪談本を読んで育った世代で、おまけに「ムー」なんかも愛読していたのだ。

 したがって怪談が収められた本を良く読む。
 心霊サイトもしょっちゅう覗いている。心霊ビデオもたまに借りて見たりする。「稲川淳二の怖い話」というCDも持っている。で、先日もまた何冊も「怪談本」を買い込んで、いま読んでいるところだ。
 近頃は、コンビニエンスストアでしか売られていないような、怪談の文庫本がある。需要があるのだろう。これから暑い夏に向かうが、そうすると怪談本はたくさん出てくる。すいかと怪談本は夏の旬である。

 なぜ怪談が好きなのかと言うと、「娯楽」だからである。想像力をかき立ててくれるからだ。よくできた怪談ほど、頭の中に「絵」が浮かんできて、背筋がぞくぞくとする。その瞬間がたまらなく快感である。

 よくできた怪談を求めて、本を読んでいる。
 しかしながら、怪談に接しているといくつかの「パターン」で書かれていることが多くて、「パターン」を逸脱しない話はつまらない。半世紀くらい前に出版された怪談本の部隊と道具立てが変わった程度の話は少なからず、ある。

 怪談本がたくさん出ているのは上述した通りである。
 で、「体験談」と銘打たれた話のほとんどは、ライターによって捏造されたものと思われる。どことなく、お手本をそばに置いて書いているように感じられるのである。ああ、前に読んだのと同じだ・・・
コンビニエンスストアで売られている本にはそのようなものが多いようである・・・
 粗製濫造の結果、「これはひどい」という本も出てくる。
 その例の一つとして、『私は「貞子」を知っている!』という本を挙げたい。これはもういうまでもなく、鈴木光司の「リング」ブームに便乗した本だ。3年前に光文社のカッパブックスから出た本だ。
 内容は「リング」3部作の解説、映像化作品の紹介、作者へのインタビューなど盛り沢山だが、それほど面白くはない。
 (余談だが、「リング」「らせん」と来て、完結編の「ループ」で思いっきりずっこけた人が多いだろうが、私はけっこう「ループ」を楽しんだ。「ループ」は、前2作までの世界がコンピューターの中で繰り広げられた仮想世界であった、というあっと驚く解釈をしてみせたお話であった。その「逸脱」ぶりがむしろ楽しかったのだ、私にとっては)
 で、「リング」「らせん」に通ずるようないかにもアヤシい体験談が掲載されている。これが、ライターの筆力のなさを露呈したかのようなものばかりなのだ。
 湘南にある有名な心霊スポット、小坪トンネルに出かけた看護婦の体験談。前の彼と別れて、新しく付き合い出した彼とドライブに出かけた。トンネルを出たところにあるにある電話ボックスに閉じ込められた。どうしようと思っていると、電話が鳴った。出てみると、それは前の彼で、「新しい彼と別れた方がいい」という。新しい彼と別れさせるために、電話ボックスに閉じ込めたというのだ。
 色々あって、新しい彼と別れて、しばらくして、あの電話をかけてきたもと彼と付き合い出した。ある時、電話をかけてきたことを尋ねると、彼はその頃、ヨーロッパに旅行していて、電話をかけた覚えはないという。

 不倫して会社を辞めた女性の話。
 女癖の悪い上司と不倫関係にあった女は、上司が自分の同僚とも不倫関係にあったことを知って、殺意を抱くようになる。それから、夜毎、上司を殺す夢を繰り返し見る。女はいつしか上司を殺すことが使命とも思うようになり、ある日、上司をホテルに呼び出し、殺害を決行しようとする。しかし、上司は彼女の腕を掴んでこう言う。「おまえはおれを殺そうというんだろう」上司は、いつからか彼女に殺される夢を繰り返し見るようになったというのだ・・・
 
 「正直言って、オレってオタク」だという男が盗聴マニアで、ある女の子の家を盗聴していたら、その娘は黒魔術の儀式をしていた。ある日、その女の子は男のところに電話をかけてくる。誰にも教えていない携帯電話あてに・・・

 このようなできのわるいミステリーのような、「リング」にかこつけた「体験談」がたくさん収められていて、しかも出来がよろしくないのであった。
 
 いやはや、便乗で安直に本を作るとこのようにひどいものになるという見本である。
 既刊の怪談本、ネットに上がっている怪談、怪奇漫画、そういったもろもろの素材からちょこちょこ盗用して作ったというのが、怪談マニアである私にはよくわかる。

 もうひうとつ言えば、よくできた怪談を書くと言うのは、才能を要求されるものなのだ。

 ところで。
 私がこれまで聞いた怪談のなかでもっとも恐ろしいものは、何と言っても「牛の首」である。あれほど恐ろしい話はない。こうやって題名を記すだけで鳥肌が立つくらいである。
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