中国、ふたつの楽園

 小泉首相や竹中経済担当大臣が国際会議出席で、中国の海南島に出かけたと、ニュースで言っている。
 海南島。
 じつは、私はこの島のことを大変気に入っている。
 広西省に向き合う、中国最南端に位置する島で、ベトナムがすぐ近くである。別名を「中国のハワイ」という、中国随一のリゾート、常夏の島なのだ。島全体がのんびりした風情で、中国と言うよりも東南アジアだ。
 ここは「天涯海角」と呼ばれる場所があり、大陸のひとはここを地の果てるところと考えていた。政治犯が流された流刑の地でもあった。
 海南島の大平洋に面したところに三亜(サンヤ)という街がある。そこから30分くらいで亜籠湾という、とても美しいビーチがある。ビーチサイドにあるリゾートホテル(ごくまれに贅沢をすることもあるのだ)に泊まり、プライベートビーチで泳いだことを思い出す。砂は白く、ごみひとつ落ちておらず、海はあくまでも青く、透明でなかば茫然としながら泳いだ。泳ぎながら、海南島から数千キロ彼方のもうひとつの楽園のことをふと思い出したりもした。
 北京から飛行機で4時間、そこからバスで3時間くらいで、トルファンという、ゴビ砂漠のなかにあるオアシス都市に行き着く。年に数ミリしか雨が降らないが、天山山脈から流れ出る豊かな地下水が地下を流れて土地をうるおす。まぶしい陽光のした、トルファンを歩くと、東京に暮らすことの不幸が感じられ、たまらなくなった。ゆったりしていて、何もない、しかし、清浄な空気と肯定的な雰囲気がある小さな町で、もし願いがかなうのなら、ここを死に場所にさせてほしいと切実に思った。
 トルファンの住人のほとんどがウイグル人で、老人は威厳に溢れ、女性は美しく、子供たちは生き生きしていて可愛らしい。夜、満点の星空の下でホテルの中庭で行われるウイグル人の舞踊にほだされて世界中から「楽園」を求めてきた人たちが踊りの輪に加わった。踊りを堪能したあと、屋台にビールを飲みに行く。屋台の経営者たちは電線と冷蔵庫を引っぱりだして、ビールを冷やしている。新彊ビールで喉をうるおしながらシシカバブに食らい付く。それがビールに実に合うのだ。

 しばらく海でたゆたいつつ、トルファンのことを思い出した。
 また、ここもまた死に場所にいいんじゃないかと思った。信じられないくらい美しいビーチで営みを終えるのもいいのではないかと思った。
 海から上がってプールで泳ぎなおすと、ほかの客は韓国人ばかり。あとは愛人を連れていると思しい台湾オヤジや香港人の家族連れだ。日本人は我々くらいしかいなかった。
 私は、亜籠湾ほど美しい海岸を知らない。

 三亜は海鮮料理もとても美味しい。ホテルのコロニアル風のダイニングで食したタイ料理も旨かった。移動の途中、食事に立ち寄った、小さな食堂で食べたお粥も旨かった。

 みやげ物屋では店員が韓国語で話しかけてきた。聞けば、店員はみんなはるばる吉林省から来ている朝鮮族の娘たちなのだという。韓国から海南島に直行便が飛んでおり、観光客が大挙して来るのだという。

 観光施設も、テーマパークも、でかいショッピングセンターもなかったけれども、ここは楽園である。熱帯のアジアがあり、美しい自然と美食がある。それで充分ではないか。

 中国に出かける日本人観光客はたいへんな勢いで増えている。
 もしあなたが好奇心に溢れていて、今とても疲れているのならば、ふたつの楽園、どちらかを訪ねて見てほしいと思う。

 歴史の北京、未来を先取りしてみせる上海、渾沌の香港、中国の見どころはそれだけではないのだ。
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