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| 香港、上海 | ||||||||
| 2002年７月１日、香港が中国に返還されて、５年めを迎えた。記念の式典が行われたが、日本でのマスコミの扱いは小さかった。報じなかったマスコミも多かった。 ５年前を思い出してほしい。テレビ、雑誌などのメディアでは香港を取り上げないものはなかった。それらは、「大英帝国の植民地」としての香港の魅力が失われるだの、中国に抑圧されるだのといった論調で、その行く末を心配していた。 しかし、じっさい香港はほとんど変わることはなかった。強いていえば、香港政庁や警察の建物などから王室の印がなくなった。不法滞在と思われるアジアやアフリカ系の怪しい人々の数は減った。年を追って、町並みは綺麗になっていく。しかし、５年前にメディアが心配したようなことは何も起こってはいない。むしろ、香港の人々はしたたかで、九龍駅から40分で到着する中国側の新興都市・深土川（しんせん）にマンションを買ったり、愛人を囲ったりしている。なにせマンションの価格は香港の６分の１、物価も６分の１なのだ。 あくまでも無責任な旅行者の目で見る限りだが、変化は見られない。 正午になると号砲を撃つ、「ヌーンディガン」は行われているし、ホテルや高級レストランの入り口には、ターバンを見たヒゲ面のインド人が立っている。街なかでも地下鉄車内でもみんな携帯電話で話すのにいそがしそうだし男人街の奥に行けば、どろんとした目をし、上半身裸に入れ墨を背負った男が裏もののポルノを収録したＶＣＤやら怪しげな薬のようなものを商っていたりする。 返還後、減った観光客の数もほぼ返還前の観光客数の水準に戻り、むしろそれを凌ぎつつある。日本からの観光客も完全に５年前の水準になって、みんな飲茶やショッピングを楽しんでいる。いま増えているのは大陸からやって来る金持ちたちで、宝石屋などで、高いものを買いまくっているらしい。 香港は、香港である。 変わらないということで、香港はマスコミ的な価値を失ったということだろうか。 しかし、実は香港は変化に見舞われている。 中華世界と西洋世界をつなぐゲートウェイとしての役割が小さくなり、経済的な苦境に陥っているのである。 それは皮肉なことに、「中国の香港化」とでも呼ぶべき、大陸における凄まじい経済成長の結果である。 海外資本が香港をパスして大陸に直接向かって行ったのである。 なかでも、上海は今や世界一発展速度の早い都市となり、香港の地位を脅かしつつある。世界じゅうのクレーンの2５％が上海で稼動しているという状況だ。その凄まじさは想像を接する。 上海と香港は、兄弟のような都市である。 香港は、ある意味、上海によって生まれた都市かもしれない。大陸における共産政権成立後、上海から逃れた財閥が香港の繁栄の礎を作ったのである。また、上海撮影所で映画を作っていた人々も香港に拠点を移した。 上海が眠りから醒めて、かつての上海財閥は続々と投資をしに戻った。 香港の映画会社は上海の撮影所をひんぱんに使って映画を撮るようになった。 上海の発展ぶりを見て、「まるで香港のようだ」と語る人がいるがそれは正確ではない。香港の繁栄ぶりはかつての上海をお手本にしたのであり、上海はかつての記憶を呼び戻したのである。 失業率の上昇に喘ぐ香港のビジネスマンたちは上海はじめ大陸に仕事を求めるようになってさえいる。これは台湾人に関しても同様で、例えば上海とその周辺に居住する台湾人の数は６0万人をすでに超えているとさえ言われるのだ。日本人も２万人以上、そのほか各国から人を引き寄せている。上海の街なかは様々な国のレストランが立ち並び、様々な人種が往来しているようになった。その様はまさしく香港と同じである。 上海は、過去と未来が交錯する、きわめて魅力的な都市である。 租界時代の贅を極めた美しい建築物が残る一方で、天を圧するような摩天楼が、今日も作られ続けている。 中国文化圏を旅する上での大きな愉しみである「食」の面もレベルは急激に上がっているようだ。かつて、「食は広州に在り」と語った邱永漢さんは、上海で美食を堪能し、その味に感嘆して、これからは「食は上海に在り」と言わなければならないだろう、と語っている。 上海は間違いなく東アジアの盟主となるだろう。東京は遠からず、その位置を明け渡すことは間違いない。それは、上海に出かけて半日も歩いていればすぐわかる。街にあふれている「熱」の違いが肌を通じて伝わることだろう。 旅を考えているという人に、上海を薦めたい。あんな面白いところはない。 しかし、相変わらず香港もまた魅力はいささかも減じてはいない。 余計な感傷で騒ぎ立てたマスコミの軽薄さはさておいて、香港のおもちゃ箱をひっくり返したかのような喧噪ぶりはいささかも衰える気配はなく、わくわくする楽しさがある。香港も、行ってみるべきだ。 |
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